奥村真さんの詩集から引用。
分別の盛り場 奥村真
噴水のへりに腰をかけて 風を描いている子供たち 空を呑み込んだり吐き出したりする青年たち 大地に雪駄で降り立ち 足を洗っている渡世人たち ごみ箱を漁っている隣人たちの傍らで 老夫婦が日向ぼっこをし 樺色の列車が走り抜ける こんもりした繁みのなかで 地鎮祭に集う愛人たちや 一列に並んだ斑らな鳥も バタバタ降りたり留まったりするけれども 噴水の音でかき消され 我慢に我慢を重ねた こころが静かに壊れる 働きかたがわからなくなって いっとき路頭に迷うだろうが またこころは生える たとえ前後のみさかいがなくなっても 別の触覚がきっと働きだすだろう アリもキリギリスも互いに尻尾を噛み合って 次から次へと踊り出す ここは朝もやと夕暮れの中間駅だ 広場には怠け者たちがこぞって生き残り 古巣からもちよった残飯を食卓にならべる 最後のひとりばかりが集う枯れた空き地で 時計に目をやりネクタイを締め直し 飲み残した缶をぐいっと一気にあおる
奥村真詩集『分別の盛り場』 発売元『白地社』、編集協力:長谷川裕一 A5版、242P、送料込1,800円
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