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骸骨人厭々日録


2004年6月

2004/6/10(thu)
黒い実家           足立和夫



するどい逆光のなかで
黒い実家が
土煙に覆われて消えそうだ
花粉みたいな土ぼこりの風のなか
無数の細かい粉全部が
黄色く輝き
眼球にくっつくようで
まぶしい
家を囲む木々や雑草が
光りながらゆれるので
空家の窓は
暗く固く閉じたまま
沈黙する家が
粉で光る空に向かって
高く聳えている
すでに二十年は過ぎたのか
ふと緑色の郵便配達夫が
門柱のポストに
手紙を押し入れるのを見た
ぼくが出したものに違いない
ぼくは知り得ぬ理由で
動かされている
家の中から声が
地面を這ってくる
母と父の口唇が叫んでいる
(なに立っているんだ
(はやく入ったら
(まったくこの子は・・・
ぼくの口は縫われたように黙り
今の時代にもどった
鉄扉を押して
老いた父母の方へ近づいていった
いまの黒い実家は幻なのか
気持ちは落ち着いていた
やあ帰ったよというかたちで



初出『ぺらぺら』8号 (2001年2月3日発行)



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