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骸骨人厭々日録


2003年11月

2003/11/4(tue)
書き下ろ詩

152年        足立和夫


百五十年以上も会社に通勤していると
行き先もいろいろだ
向かう方向も正反対になることは
しばしば起こることである
朝の電車の顔ぶれも見知らない
ほとんど亡くなってしまった
吊革の歴史を憶えているのは
もうわたしだけだろう
こんなに老いた者を
まだ会社は首を切らない
理由を知ることはないが
ただ働けばいいのだ
暗黒の街に住み
日々が流れていくと
顔が真っ白になる
それはサラリーマンの証しである
引き換えに
自分が誰であったか
わからなくなる
それはどうでもいいことなのだ
必要もないことだから
会社の動きが生活である
わたしの心には歴史もなく
じつは永遠もないのである
のっぺらぼうのゆで卵みたいなものである
給料はわたしを通りすぎていき
銀行で紙幣たちが
瞬時に何かに変身していく
百五十年以上も時間を経ると
それらの出来事は
どうでもいいことなのだ
人生を超えたことなのだ
会社はわたしの人生を買っているのだから
買われている人生が何であるのか
わたしは知ることはない
ただ暗黒の街への懐かしさだけが
百五十年以上も生き延びている
それだけは確かなことだ



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