Mar 28, 2007

FLOWERS

「花人 中川幸夫の写真・ガラス・書-いのちのかたち」(求龍堂)を買いました。
2005~2006年に宮城県丸亀市で行われた展覧会のカタログを書籍化したもののようです。
4500円と一寸高いですが、現在中川幸夫の作品を大きな図版で見られる本が皆無なため、
私としては待ち焦がれていた一冊でした。

といっても、私が中川幸夫という人を知ったのは比較的最近の話。
知識もいくつかのテレビ特番で見たり雑誌の記事を読んだぐらいの乏しいものですが、
とにかくこの人の作品は一度見たら一生忘れることが出来ないぐらい衝撃的、
一度見たらもう一生見続けたも同然、そんな作品です。

一応紹介しますとこの人は前衛いけばな作家と呼ばれる人で、
その作品は通常のいけばなとはあまりにかけ離れたものであり、
説明なしに見せられれば誰もこれをいけばなだとは思わないでしょう。
ですので中川の作品を文章で描写することはほぼ不可能です。
しかし、あえて描写してみますと、
ドーナツ型に固められたチューリップの花びらが真っ赤な花汁を滴らせる「泉」。
おなじくチューリップの花びらがうずたかく積み上げられた「魔の山」。
乾ききったカーネーションの花びらが溶岩石のように固められた「自華像」など。
…やはりよくわからんですね。
写真を載せられれば、もうそれでなんの説明も要らないんですが、著作権とかいろいろありそうなので、
興味のある方は本屋で実際に手に取ってみるか、「中川幸夫」でネット検索してみてください。

前衛というものは、実際には目に見えない心の内部、あるいは心そのものの形を表すものでしょうから、
なかなか目で見てそれを理解することは難しいと思います。
心眼で見ろ、というのも一般的には無理な注文でしょう。
だからこそ、一目見た瞬間に強烈な衝撃を与えることが、
それが作品として存在するための第一条件ではないかと思います。

岡本太郎は、なんなんだこれは!と見る者に思わせることこそが芸術なのだ、
というようなことを言っていましたが、殆どの前衛芸術は一見してなんだかさっぱりわからないし、
別にわかりたいとも思わない、というようなものだと思います。
岡本の言うのは、なんなんだこれは!という衝撃と共に、その作品のことで頭がいっぱいになり、
わかるわからないに拘わらず、それについて考えずにはいられない状態にさせてしまう力のことでしょう。

しかし一目見た瞬間に強烈な衝撃を与えられるかどうかは、努力うんぬんよりも、
根源的な才能が必要になってくるのではと思います。
前衛芸術は、ものすごく乱暴に言ってしまえば、熟練した技術を持たなくても、
誰にでも作成可能なものです。
しかし誰にでも出来ることをやって、尚且つそのなかで秀でることはとても難しく、
それが出来る人はやはり特殊な才能を持っている人なのでしょう。

中川幸夫は長年前衛いけばなというジャンルに打ち込み、途方もない試行錯誤を重ねてきた人ですが、
それでも彼の作品群に見られる、まさに一度見たら目が離せなくなる、他の追従を許さない特異性は、
元より胸に宿っていた花への激情と愛情、そして生まれ持ったセンスからきていると思います。

私は正直言って、中川の作品が好きであるのかどうか未だによくわかりません。
もしかしたら嫌いなのかもしれない。
しかし中川幸夫の名前を何処かで聴くとぴくんと反応してしまいますし、
その作品に出くわせばしばらく目を離すことが出来ません。
恐らく私は一生中川の作品を忘れることが出来ないでしょう。
つまり中川幸夫の作品とはそういうものであり、前衛のど真ん中を貫く数少ない一人だと思います。

この写真集は三部構成になっていて、第一部がいけばな、第二部がガラス/オブジェ・平面作品、
第三部が書となっています。
ガラスを使った作品群は、水が、生命になる瞬間、を捉えたものというように私には感じられました。
水は生命の源であり、それが時間と光の中で偶然にある形を成した時、
生命として新たに誕生するのではないか。
あるいは花を愛撫し作品へと昇華させていく過程で、中川が感じている花の中の水の形を、
作品にしているのかもしれないとも思います。
いずれにしても中川の、生命への激しい思いがここにも表されており、
それは第三部の書においても同様です。
中川は新たな作品に挑むとき、まずその思い書に表すそうですが、
どの作品を見ても、白紙に激しく墨が叩きつけられ、
まさその瞬間の激情がそのまま凝固している、というようです。

まあ、とにかくこの人の作品は一度目にしておいて損はないはずです。
未見の方は是非。
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