Jun 30, 2006
手塚敦史さんの新詩集
「数奇な木立ち」(思潮社)を読みました。手塚さんは2004年にふらんす堂より第一詩集「詩日記」を上梓、
今度の詩集が第二詩集となります。
読み始めると、言葉が、すっすっと、視界を滑り抜けて行くようです。
するともう読み手である私の足の下に地面はなく、
中空の、しかし不安ではない場所に浮いており、
そして相変わらず言葉は、風のように通り過ぎていきます。
その感覚が非常に気持ちよく、身を任せたまま、感慨を深くしないまま、
どんどん読み進んでいきたくなります。
所々に道標が立っています。
そこには連の数と、様々な単位でもって現在地を知らせており、
本来なら触れることすら出来ない次元から次元へ、自由に飛び渡っていく気がします。
まるで銀河鉄道の車窓から、外をぼんやり眺めているよう。
あるいはガラスのマントをつけた、風の又三郎の視線でしょうか。
そんなここは中空であるのに、草と土の匂いが色濃くします。
また、人間のあらゆる感覚から流れ出る涙の匂いも。
温度は冷たく一定で、鉱石の温度です。
時に行に段差がつき、身を揺すられたりもしますが、不安はありません。
それは実に自然な揺れ、というかざわめきであり、
しかしそこには絶妙なバランスを保つ力がはたらいています。
言葉は相変わらず流れ続けています。
最早何処にも、知った顔はありませんし、馴染みの事物もありません。
すべてが白く、新しく、しかしずっとそこにあったのに、
ちっとも気付かなかったもののようです。
この詩集は、人間の手で作ったもの、と言う感じが、不思議なほどしません。
そういう空間がどこかにあって、それを忠実に再現しているよう、
この詩集を読むということは、その空間を体験するということのように思います。
そんな世界に浸ってみたい方、是非この詩集を手にとってみてください。
他では決して出会えない、新しい経験がそこにあります。
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