Nov 17, 2005

久々に映画館で映画鑑賞。

ブルーノ・ガンツ主演、「ヒトラー最後の12日間」
私の住んでいるのは田舎ですから、こういうのが今頃来るのです。
なるべくネタバレは避けて書くつもりですが、
まっさらな状態で映画を見たいという人は、
今日のところはご勘弁を。

なかなかの映画でした。
映画としての出来はまあまあですが、ヒトラー役のガンツを始め、
脇を固める俳優さんたちの演技が素晴らしく、
特にヒトラーの側近ゲッペルス役の人はいい味を出していました。
しかし当然ながら人が死ぬシーンが山ほど出てきて、しかもその半分ぐらいは頭を撃ち抜いたり、
ピストルを口に咥えての自決シーンだったりですので、
そういうのが苦手な人は見ないほうがいいかもしれません。

内容は第二次世界大戦末期のベルリン、地下要塞でのヒトラーを中心とした人間たちを描いたものです。
前評判では、ブルーノ・ガンツがヒトラーを演じた!ということばかり話題になっていたようですが、
この映画はヒトラーよりもむしろ、ヒトラーの周囲に居た人々に焦点を合わせた映画だと思います。
ヒトラーとナチスという強大なものと共にあった人たちが、どのような考え方をし、
どのような価値観をもって、どのような行動を取ったのか、それがこの映画のポイントだったと思います。
実際、ヒトラーが自殺したあとも、映画は、恐らく三十分ぐらいは続き、
ヒトラーとナチスという大きな柱を失った人たちのそれぞれの生き様が描かれます。
ちなみに邦題は「ヒトラー」ですが、原題は「der untergang」と言って、
没落とか破滅という意味だそうです。

映画の中で否応なく胸に刺さるのは、ヒトラーに最後まで忠誠を守る人たちの姿です。
ヒトラー存命の間だけでなく、ヒトラーの死後も忠誠を守り、何の迷いもなく次々と自決していく人々。
しかも閣僚ならまだしも、それほど位の高くない人々まで、
はっきり言ってわざわざ死ぬ必要はないと思えるような人たちまで、
ヒトラーと運命を共にすることを自ら欲して死んでいきます。
しかしそのヒトラーですが、この映画で描かれるヒトラーは決してカリスマとしてでなく、
ドイツという国と国民を自分個人の所有物と錯覚してしまった「人間」であり、
その所有物が自分の思い通りに動かなくなるとヒステリーを起こして、
実現不可能な作戦を命令したり、醜く怒鳴り散らしたり、威厳もなにもなくなっていく小男です。
周囲の人間はその哀れともいえるヒトラーの姿を間近で目撃するにも関わらず、
なおも強い忠誠を尽くし続け、命まで捧げてしまうのです。

これは何でしょうか。
依存でしょうか。
人間一人一人は弱いものですから、大部分の人間は多かれ少なかれ何かに依存したがるものです。
依存するものがなにもなかったり小さかったりすると、人間はとても不安になりますし、
だからなるべく大きなものに依存したがるものだと思います。
そしてあまりに強い依存心は、例えそれが悪であったり幻に過ぎなかったと悟ってもなお、
依存し抜くことに執念すら燃やし、そこにある種の幸福を見出すのかもしれません。
それが所謂、人間の弱さというものでしょうか。
そんな簡単な話で片付けられるものではないかもしれませんが…。
しかしこれは現代の戦争、あるいは企業や社会や宗教などにも、
共通して言えることのような気がします。
大きな流れの中で個の判断力を徐徐に失い、果ては自ら望んで判断力を放棄する。
映画は六十年前の戦争の話ですが、
いまも世界の多くの場所で同じことが実際に起こっていることは事実だとおもいます。

この映画で驚くことのひとつに、生き残った登場人物のかなりの人が、
つい最近まで生きていたということがあります。
ヒトラーの秘書を勤めていた女性は、2002年まで生きていましたし、
そのほかの人も高齢になるまで生きていた人が何人かいます。
それを見ると、ひとつの大きなものを失ってもなお、
人間はさらに生きていく力を持っているようだとも思えます。
賛否両論の映画ですが、そんなことを考えるためにも、見ておいて損はない映画だと思います。

思わぬ長文になってしまいました。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
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