Jan 18, 2007

酔いどれ天使

考えてみれば、このブログで映画のことを取り上げたことがまだなかったですね。
映画は、マニアとまでは行きませんが、邦画洋画ともに結構観てきました。
古い映画も最近の映画も、SFも名作ものもアクションものも。
何から始めましょうかね。
うーん、じゃお初ということで、定番の黒澤明でも行きますか。

黒澤映画は、恐らく殆ど観ているはずです。
リアルタイムでは、「影武者」あたりからになるのでしょうか。
多分小学校高学年だったと思いますが、その頃黒澤映画は日本でも少々人離れが起こっている頃で、
話題にはなっていても爆発的ではなかった気がします。
「影武者」はテレビで最初に観たはずですが、
あの映像の美しさが、そのときには寧ろ奇妙に思えたことを覚えています。
時代劇なのに綺麗な映像というのが、なぜか私の中でちぐはぐだったんですね。
私の固定観念とちょっと違っていたわけですが、そのときには「ふーん」と思った程度でした。

世の中にレンタルビデオというものが定着したのは私が高校生の頃でした。
その時分になると私もいろいろとビデオを借りてきて映画を観ていたのですが、
洋画ばかりに目が行って、邦画は殆ど観ていませんでした。
私が黒澤映画を頻繁に観始めたのは、恐らく十九、二十歳のころだと思います。
確か「夢」が公開されるちょっと前。
ずいぶん遅いデビューですね。
私も結構アンテナは敏感なつもりですが、それでも引っかかってこないほど、
当時黒澤は時代遅れとされていた存在だったのです。

ではなんで引っかかってきたのかというと、
「スター・ウォーズ」の監督ジョージ・ルーカスは黒澤の大ファンであり、「スター・ウォーズ」は、
黒澤の「隠し砦の三悪人」をパクっている、ということを何かの雑誌で読んだからでした。
早速レンタルビデオで借りてきて観てみると、これがもうびっくりするぐらい面白かった。
私は時代劇が好きではなく、極端に古い映画は面白くないものだと思っていましたので、
まったく期待しないで観たのですが、それまで観ていなかったのが悔しくなるほどでした。
ストーリー展開といい、台詞回しといい、ひとつひとつのシーンの独立した面白さといい、
どれをとっても完璧で、遊びに来た友達にも無理やり観せてしまったりしました。

その後、黒澤映画を片っ端から観ていったわけですが、今更言うまでもなくどれも素晴らしいものでした。
最初期の「一番美しく」や、前衛がかった「どですかでん」、あと「デルス・ウザーラ」などは
ぴんときませんでしたが、あとはどれも面白かったですし、映画についていろいろ考え込んだのは、
黒澤映画が初めてだったと思います。

私にはどうも食わず嫌いをする気があるようで、あの「七人の侍」はかなり後になって観ました。
なぜかというに、映画関係の雑誌で「映画ベスト100」的な特集をやると、
必ずその一位は「七人の侍」であり、それを見て私は勝手に「そういう映画に限ってつまんねんだよな」
と決め付け、さらに4時間を超える上映時間も気になって、どうも観る気になれなかったのです。
しかしいよいよもうそれしか観るものがなくなって、仕方なくといった感じで「七人の侍」を観ました。
結果は完敗でした。
馬鹿みたいに面白かった。

上にも書きましたが、私は時代劇というものが好きではありません。
はっきり言って嫌いです。
NHKの大河ドラマも観たことはありません。
そんな私がまったく抵抗なく、しかもすごく面白く観れてしまうというのは、
恐らく黒澤映画の時代劇というのは、その本質が時代劇とは別のところにあるからだと思います。
一つ一つのシーンにしても、全体の流れにしても、普通の時代劇とは異なる価値観によって構成され、
それは時代設定に関係なく常に黒澤映画に流れている通奏低音のようなもの、
そういうものが、「黒澤映画」を「黒澤映画」たらしめているのでしょう。

ところで、ではどの映画が一番好きなのかと訊かれたら、私は迷わず「酔いどれ天使」と答えるのです。
この映画は戦後間もない頃の闇市周辺を舞台に、
一人のやくざとアル中の町医者との交流を描いた作品です。
やくざは三船敏郎、医者は志村喬。
この映画での三船ときたらまあかっこいいこと。
まだ太る前でスリムな体に苦みばしった表情の三船は、
日本映画史上最もかっこいい俳優だったのではないかと思います。
そしていつもは物静かな老人を演じることの多い志村喬は、
この映画では怒鳴り散らしてばかりのかなり激しい役どころで、
ちょっと見ただけでは志村喬とわからないほどですが、こちらもいい味出してます。
ストーリーは、まだ観ていない人のために詳しくは書きませんが、至ってシンプルなストーリーです。
私は何にしても、シンプルなものが好きなんですね。
飽きがこなくて何度でも繰り返し楽しめるし、なによりシンプルなものは凶暴です。
余計な言葉を寄せ付けません。
ナイフのようにぐさりとやられてそれっきり、言葉もないという感じがいいです。

ちょっと思い出しましたが、黒澤映画には音楽が絡むシーンがあるものが多く、
この映画でも「東京ブギウギ」で有名な笠置シヅ子がクラブで歌うシーンがあります。
このシーンもそうですが、黒澤映画の音楽シーンというのは、実によく練られています。
「隠し砦の三悪人」の祭りのシーン、「夢」での狐の嫁入りのシーンなど挙げれば切りがないですが、
私の一番好きなのは、「どん底」のラスト近くで落ちぶれた男が三人、
ひとりが座って茶碗を箸で叩きリズムを取りながら歌い、その周りであとの二人が踊り狂うというもの。
歌は、なんというんでしょう、浪曲のような感じで、踊りは阿波踊りのようなものなのですが、
これが歌といいリズムといい、踊る者の動きのキレの良さといい、もう完璧です。
音楽といえばロックにしか興味がなかったその頃の私でも、これにはまったく度肝を抜かれました。
ここら辺も、黒澤一流のセンスとこだわりが爆発しているところだと思います。

ひー、疲れた。
二回に分ければよかったかな。
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