Mar 07, 2007
共同幻想論感想リライト
猫月亭さんのことばがきっかけで、再び考え直すきっかけになりました。もう一回基礎のところから書いてみます。この本は、60年安保で活動したり、全共闘世代に大きな影響を与えたりした、吉本隆明が書いた本。基本の発想としては、いたずらに、頭で、国家を批判したりしないで、自分の実感から、日本という国がどうして成り立ったのか?そもそも国家とは何なのかを問うた本。とはいえ、「幻想」という言葉で、いろんなことを切り取ろうとしているのは、当時としては新しかったけれども、今はどうなのかなあと自分の感覚を振り返って思う。そもそも、僕らは、「国家」に対して、そんなに思い入れがあるのだろうか、「幻想」というものを「国家」に対して持っているのかわかりません。たぶん、吉本さんも、そんなことを頭の半分には入れていたと思います。「国家」は自分と関係あるのかと。それと、吉本さんは戦中派世代なので、「国家」に裏切られたという思いが強いのではないかと思います。だから、序文で、国家というのは、自分を丸ごと包むようなものだと思っていたのが、西洋ではそうではないと、西洋はシステム(という言い方はまずいのかな?)として、国家があるのだという考え方に気づいて、驚いたと語っていますね。引用します。
(国家は)わたしたちがじっさいに生活している社会よりも小さくて、しかも社会から分離した概念だとみなされている。(角川文庫版のための序)
まず、自分たちの生活があって、その上に国家と云うものがあるので、ダイレクトに国家と生活は関係ないということに吉本さんは驚いたようです。「自己幻想は共同幻想と逆立する」というテーマが吉本にはあります。吉本さんは、いろんな人間関係をもったりして、そこから生まれてくる「意識」のようなものを「幻想」と呼んでいるんですね。「幻想」という言葉に、吉本さんは思い入れがあるんだと思うし、昔の人の意識や、今の人の意識でも、性や何かまで含めた人間が持つ(心身相関的な)関係意識や無意識や観念まで含めると、「幻想」と呼べるかもしれません。「意識」と呼ぶとニュアンスがこぼれてしまうので「幻想」と呼んだのだろうと思います。吉本さんは国家に対して熱い思い入れを持っている時代に生まれた人だから、思い入れを幻想と呼べるかもしれません。でも、吉本さんの中でどこかで、国家なんてどうでもいいやと醒めた意識もあって、何で国家に自分の生活や運命を振り回されなきゃいけないのという怒りのようなものも同時に芽生えたのかもしれません。それは敗戦、高度成長をへて、国家と、個人の幸福が、矛盾していくのを、彼が見たからかもしれません。(公害とか)一方で国家に対して熱くなっている人に「国家も幻想だよ」と冷や水を浴びせたくなったのかもしれません。でも吉本さんは、国家にこだわってもいる。国家は個々の人を飛び越えて浸透し強権を発動するのはなぜか。そういう矛盾の意識が「国家は共同幻想」といいたくなった理由かもしれません。表立って「反国家」を掲げていないので、ここの読みが難しいところです。
「自己幻想(個人の意識)は共同幻想(国家)に逆立する」というのは、そういう吉本さんの感覚から出来た言葉だろうと思います。国家は自分とは直接関係ない。国家なんてなくてもよかったのに。ややこしいなあ。にもかかわらず、国家が生まれると、それに私たちは左右されてしまう。裏切られる。なぜだろう。きっと理由のあることなんだろう。それを歴史にさかのぼって、解明しようとしたのがこの本だということになるかもしれません。そもそも日本列島の原住民は国家なんて望んでいたのだろうか、いろんな紆余曲折があって、人間の意識が、変化していくにしたがって、国家と云うものが、矛盾として私たちの上にできたのではないか。成立時点まで遡らなければ国家の存在する謎は解けないと考えたのでしょう。なお、強引に他民族が侵略してきて、国家が成り立ったという説に彼は中立的です。侵略されたのだが、どのように古来の共同体の上に国家がのっかかってきたのかを見ています。
国家なんてなくてもよかったのに、国家なしでもいきていけるかもしれないというのは吉本さんだけでなく多くの人の実感を描いたものかもしれません。(本当かな?)でも事実として国家はにもかかわらず存在し、私たちの生活と関係があると。(どのように関係があるかは一口で語れません)ここは彼は詩人としての目だけでなく、リアリストとして論及しています。しかしこの本は入り口に立ったということでしょう。彼にとって「家族」がキーポイントであり、家族の中で持つ「関わり」の意識が大事だ。それは国家とは直接つながらないが、最初に暮らす集団であり、これが解明の鍵だという考えがかなり大きいです。彼にとっても多くの人にとっても家族というのは大事ですから。
単に学術というのではなく、自分の実感にこだわって、書いたり、考えたりしている本です。そこに僕は敬意を抱きます。正直、百分の一も僕は理解できていないのかもしれませんが、ややこしいとはいえ、大事な本だと思います。吉本の思想はそんなものではないと思う方もいるかもしれません。あくまで、僕なりの理解です。今回もわかりづらかったかな…
次は、司馬遼太郎『峠』全三巻に挑戦しようと思います。
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