Nov 02, 2008
イル・ポスティーノ(1994)
監督:マイケル・ラドフォード
原作:アントニオ・スカルメタ
《キャスト》
マリオ:マッシモ・トロイージ
パブロ・ネルーダ:フィリップ・ノワレ
ベアトリーチェ:マリア・グラッツィア・クチノッタ
「イル・ポスティーノ」は英訳すれば「ザ・ポストマン」となりましょうか。
一九五〇年代の一時期、祖国を追われた実在の詩人、外交官・国会議員(さらに共産主義者)のパブロ・ネルーダがカプリ島に亡命した史実にもとづき、架空の漁村を舞台にこの物語ははじまります。
島民の殆どの男たちが漁師であるこの漁村の島で、内気な青年マリオは、漁師の父親に背いて、文字が読めることから郵便配達の仕事に就く。島は権力者の怠慢と傲慢のもとで、慢性化した水不足と貧しさのなかにあった。届け先は、チリから亡命してきた詩人パブロ・ネルーダの家だけでした。識字率の低いこの村で、これは偶然の出来事ではないかもしれません。亡命詩人のもとには、毎日たくさんの世界中からのファンレター、贈り物などが、届けられました。つまり二人は毎日のように会い、次第に会話は広がり、二人の間にはゆっくりと友情が育てられてゆきます。
パブロ・ネルーダとの交流のなかで、マリオは「詩の隠喩」を理解します。ここからマリオの詩作へ向けての新鮮な一歩が始まりました。この詩は密かに愛する女性「ベアトリーチェ」の心を動かしました。紆余曲折はあったものの、二人は結婚します。
マリオは、パブロ・ネルーダが妻マチルデに送った詩を、ベアトリーチェに捧げますが、「他人の詩を使うことは感心せん。」と言うネルーダに、マリオは「詩は書いた人間のものではなく、必要としている人間のものだ。」と詩の本質を突くまでになっていました。
やがて、二人は結婚、もちろん祝いの席にはパブロ・ネルーダもいました。その最中に、彼の追放令が解除されたとの知らせが入り、ネルーダ夫妻は帰国。喪失感のなかで、マリオはやっと詩人との真の心の交感を理解してゆくことができた。翌日から彼は、島の自然の音(波の音、風の音、星空の音さえも。。。)を録音し始め、彼の心の世界は広がった……。それがマリオのパブロ・ネルーダへ届ける詩ではなかったのか?
数年後、ネルーダ夫妻が島を訪れた時、そこにはベアトリーチェとマリオの息子パブリートの姿しかなかった。マリオは共産党の大会に参加し、パブロ・ネルーダに捧げた詩を労働者の前で発表するために大衆の中をかき分けて進んだ時、暴動が起きてその混乱の中で命を落としたのだった。
「革命」と「詩」とが、互いに言葉を求め合い、共振した時代がここにはありました。それは激しい戦いの時代が生み出した「静かな叙事詩」であったように思えてなりません。
【付記】
この映画の丁寧な感想を桐田真輔さんが書いていらっしゃいます。詳細をお読みになりたい方は、是非こちらをお読み下さい。わたくしにはこれほどのことは書けませんので。
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