Dec 22, 2006
イノセント
監督・ルキーノ・ヴィスコンティ(イタリア)=遺作。
原作・ガブリエーレ・ダヌンツィオ
この映画は「ヴィスコンティ生誕100年祭」の一環として、『完全復元&無修正版』を八月二十三日にイタリア文化会館の「ウンベルト・アニェッリ ホール」で観ました。大変に美しい画面に驚かされましたが、その折には映画感想を書く気持はあまりありませんでした。しかし、二十一日午後にコーヒーを飲みながら、何気なく観たテレビドラマで、ふいに思い出したのでした。
どうということのないドラマです。夫以外の子供を身ごもった女性が、お互いにそれを承知で結婚し、その男児を産み、さらにその後に女児も産まれ、幸せな四人家族を築いていたのですが、中学生になった息子はそれに気付くのでした。育ての父親に「僕は産まれてこなければよかったんだね。」と問いかけますが、父親はそれをきっぱりと否定します。それによって息子は本当の父親に決別するのでした。
そのシーンを観ていましたら、ふいにこの映画を思い出しました。その少年の決意に、何故か心を動かされたのです。この世に子供が産まれてくることは、どんな事情があっても祝福されるべきものであるからです。
二十世紀初めのローマ。社交界にスキャンダラスな話題を振りまくトゥリオ伯爵は、未亡人の公爵夫人テレザと関係を持ちますが、妻ジュリアーナにそれを認めさせようとします。しかし妻は作家フィリポとの不倫に走り、彼の子どもを身ごもりましたが、お互いに離婚はできません。苦しみと憎しみと嫉妬のなかで子供は産まれてきたのです。そこでジュリアーナの子供への愛しさと、トゥリオ伯爵の子供への憎しみが交錯します。
ここにはヴィスコンティ自身を投影させた、貴族階級の地獄のような悲劇を冷徹に描き、加えてキリスト教の厳しい戒律をもこめているのではないかと思われます。これがヴィスコンティの遺作となったことも意味深いことかもしれません。
クリスマスの晩、教会に行かないトゥリオは、家族の留守に、乳母も無理矢理教会に行かせて、雪の降る戸外へ赤ん坊を晒して殺してしまうのでした。夫のもとを去る妻のジュリアーナ。トゥリオはテレザのもとへ戻るが、結局トゥリオはピストル自殺で幕を閉じるのだった。
「地上のことは地上で決着をつけたい」これが無神論者トゥリオの考え方だった。
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