ホルスタインの町から

ホルスタインの町から

南原充士

気の遠くなる 本棚いっぱいの本の背表紙
とても図書館員にはなれません

漢文 英文 仏 独 露……
世界には二百もの国があり 
多くの民族と文化があり
何十億もの人間がいます

名前さえ知らないで この同じ時に
同じ地球上で暮らしている
どこかで風ぐらいは吹き交わしているだろうか

すれちがった車の中にとびきりかわいいこがいても
たった一秒のフィルムはたちまち消え失せ

牧歌的な気分で ホルスタインの
ゆったりした歩みを眺める

にがみはホップで
あまみはビートで

花の香りは小さな町中にひろがり
みつばち族はぶんぶんとやってくる

顔を見合わせた人びとから笑みがこぼれ
野山を散策する夏らしい装いが

いつもより気持ちを浮き浮きさせているようだ

(でも先週に祖父を亡くし
姉の子供は重い病気で入院したままだ)

こうして自分の足で歩き 元気に叫び声を上げられるのは
なんていいだろう

広々とした畑の間に 青い屋根 赤い屋根の
かわいい家が散らばり

線路が曲がって町の中を通っているのが見える
まわりを低い山に囲まれ

遠く稜線にはかすみがかかっている

ぐるぐると三百六十度回って空を見上げ
草むらの上に寝転んで

とうもろこしをかじり お茶を飲んだ

あとはバイクにまかせて 空いた道路を
風を切って走ろう

みゆきちゃんを後ろに乗せて
汗ばむ午後の時間のゆったりした流れを

斜めに過ぎっていく直線のような
軌跡が   

空から見れば 見えるように