冬の街

冬の街

高田昭子

銀杏の黄色い葉がすっかり落ちて
つつましくカサコソと舗道が声をたてている
この街へおとずれると
どこへでも行けると教えていただきました
磁石地図も持っていません
満腹してる赤いポストは口をつぐみ
伝言や行先や名前がわかりません
あるくひとのかたには陽があたって
ながい足さきのほうには影がのびています
わたくしこそが捜されていたい
ここの言葉はなんですか わたくしにも影をください
ベンチに腰をおろして冷たい街の空気を吸い込むと
野良猫言葉が聞こえるようになったの
ガムを噛んでいると銀杏の裸樹のしわがれた声も
理解できるようになったの
わたくしはかわりに言葉を失った
こわい いいえこわくないのです
耳の奥の透明な震動膜が聴き取るものが
街の言葉ですから
あおい空にすぅーっと吸い込まれる街なのです。

  *     *     *



この詩には北村太郎さんの「暗号詩」に倣って、「暗号」がかくされています。
ヒントは行頭の「い」から出発、あとはジグザグジグ……と辿ってください。