思い出に浸ると死んでしまう14
平井弘之
首から竜が生まれる
ひとあしひとあしいいや
かたあしかたあし
あたしには若さだけがない
林檎を焼いておくれな
わかい娘さん
その林檎熱いうちにむさぼって
唇も舌も火傷した
首から竜が生まれる
娘さん
扉をあけて
ひとあしひとあしいいえ
かたあしかたあし
あたしには若さだけがない
昔まだわかい妻と花園神社の境内を歩いていた
首から竜が生まれる
ひとあしひとあしいいよ
わっかい頃はそれこそ脚なんぼんも投げ出せた
ふたあしみあしよあしごあしと
どこまでも行った
兄さんたちにはすこし脅かされちまったけどさあ
そんなに悪いふうにも
こあい風にも視えんかったよお
あたしには仕合わせだけがない
従姉妹たちは違ったでなあ
贅沢もしたかったあ
倹約もしてみたかあ
一途にも生きてみたいやなあ
ひとあしひとあしいいや
かたあしかたあし
首から竜が生まれる
この店を出たら
もう誰とも話すこともないんよ
さてと今夜は花園神社をぶうらりとしてかえるかなあ
首から竜が生まれる
かたあしかたあし
・・・
脚がとまる