雨が降ったら
有働薫
雨が降ったら行くよ
夕方 薄闇にまぎれて
家には入らない
家の屋根か フェンスの陰に
ひっそり
ガラス戸にうっすら
月夜の影法師のように
踊っているのが見えたら
小さい声で
泣く
「今晩は待っていないでください。夜は黒く白いでしょうから*」
晴れて
星がつめたく輝く夜は
それがなんだかわからないけど
からだのなかに
衝動が
はげしく燃えあがって
ごうごうと深海をながれる
親潮と黒潮の分厚い層のめくるめく交差
めがけて
走る
(わたしのなかはからっぽ
ただ恋する気持ちだけ)
* ネルヴァルが叔母に宛てた最後の手紙