私の声、静かに —第一部、短詩篇— / —第二部、長詩篇—
いわば世界は (全、3篇。)
冨澤守治
私の声、静かに —第一部、短詩篇—
なぜか
通り過ぎて行く影たち
このこころのなかに差し、忘れ放ち、終わり行く
通り過ぎて行く
意識の光たち、その
わずかに明るきもの、ほのかな
ひらめきと言われる思い付きに似て
傾いて行くひとびとは
思い出となり
長く繰り返して見てきた夢と重なり
現実と仮想の空間を
遠く離れている者の思い
私
私は あなたたちは誰れなのか、なぜなのかと問いかけるが
応えもなく
私の言葉は、私以外の友に、恋人に
心の内にも、繰り返されることもない
行き、そして去る者
帰り行くひとに
ただ呼びかける
私の声
静かに
私の声、静かに —第二部、長詩篇—
なにのわけもない、疑わしげに傾いたこの世界
失い続けている私の魂の領地は冷え続けていく
逃れたくても、とどまり
居切り立つ想いを振り捨てても
大切な人々が流れて行く
もう二度と取り戻せない時間のなかで
—そういえばこれもいつかは時代となって、すべての物事は等閑に伏せられ
ていくのだろう。
もちろんそれを期待しているやからどもも、当然に居るのだ。—
もう二度と取り戻せない時間のなかで
夢の話で恋人は語りだし、眠りのなかで私は
それを聞いている —なんという、はかない幸福か!—
二度と取り戻せない時間のなかで
こんなことはあっていいのだろうか
愉快でも不愉快でもあるテレビのニュースに、私は思いを馳せている
いつもそんな夕暮れには
突然に世界が色を褪せて行き
堕落した戒律のひどさに誰もが驚いている
いや違う。むしろそれよりは
誰かが話したことは、それほども話題になるものなのか
それよりは…
誰かの悲しみに共に悲しんでいるほうが
まだしも幸せであるのではないのだろうか
埋めようもない絶望と損失
とどまることのない渇望もまたともなう
悲劇はいつまでも希望には結びつかない
どうか私を誰もがほおって置いてくれ
そのほうがよいのか、私は疲れているんだ
思いを馳せる恋人は、いつまでも私の言うことを聞かない
私の恋はどうしていつまでも古風なのだろう
考え抜いても、考え抜いても
私の心は深く、思いは深く
齟齬はない。それなのに
あまりに多くの風が私たちを通り過ぎて行ったのだろうか
静かに、静かに
この世界に問いかけてみる
小さきものか?
この私は
いわば「世界」は
いわば人間(ヒト=一応、ホモ族に限る)の「世界」は閉じられた
マッチボックスのようなもので、小さくて縦長の狭い窓だけが開い
ている。あるいはそれしか出入り口の無い場合も多い
つまり「ヒト」の「世界」は、多かれ少なかれ閉じられているのだ
非常に悲しいことではあるが、現下のひどい状態では仕方がないこ
とかも知れない。こういうと、そのー、私はとても嫌なのではある
が、
「この世界しか、あたしは知らない」
「おれの世界やで、お前、ナニ言うトンね」
「それが何か、問題やと、(お前)思てるのか?」
「お前、一体ナニが不満だ!」
ヒトよ、お前の知るものは部分であって、世界「そのもの」ではな
い。世界の似姿を、神の似姿のように映しながら、この世を彷徨っ
ているだけなのだ。世界ではない。まして人類の運命でもない
結果的に誰かが苦しみ、死ぬぞ
と言ってみても、私の心は言葉ほどには誰にも届くまい
この世界を、この場合は惑星、地球と言ってもよいのだが、
この世界をめぐり、吹き渡る風は‐これもヒトには姿の見えない魔
物だ‐「世界」を押し流して往く
別の、誰かの「世界」があって、その常識に従って、世界を変革す
る机上の空論が出来た。あるいはそれらはおうおうにして悪意に基
づくもので、そのひとたちはともかくも注目された。さらに為政者
の喜びを満たすものでなくてはならなかった
それは、無邪気ではないか?
再び、あなたの縦長の窓に帰れば、光も縦長に狭く差す
行き会うひとびとにも、あなたは縦長の通路しか許さない
広い「世界」は、いつも危険な「暗闇」として出会われる
あなたは豊穣に実る麦畑の、干されて刈り取りを待つ水田の稲の実
る、そんな光景の陽の光も、(その意味も)知らない
光合成の経路を成すクロロフィルは、あなたの血を流れるヘモグロ
ビンと逆に働いている
かくて二酸化炭素は、より高次の糖類に固定されては、酸素に燃え
てエネルギーを発生し、二酸化炭素に戻る
忘れるな、この物質の、遺伝子たちの成し遂げる合理的な円輪を!
合「理性」の本質は、こんなところにもある
光の「本質」を見よ、神眼をもって見よ
それでもあなたの窓からは細く縦長の光だけが斜めに差している
めぐり往く日時計の中に住むあなたは、さらに秒針付きの時計を
見つめている
こんな例だけではない
ことごとく、本来の世界の文脈は数字に置き換えられていく
デジタルな夢が現れては消え
獰猛な自己犠牲と殺戮と排他も、数字の判断に置き換えられては
繰り返すマネーゲームのうちにこの世は、破たんしていく
ひとが縦長の狭い窓だけが開いた部屋に住む限りは