「砂嵐」拝読芽藻  やんま


「春のうさぎ」
   水色の水へ落ちゆく月うさぎ

「言葉で」
   言の葉の楽し悲しと夏の凪

「音楽」
   水の音楽しと思ふ秋ひとり

「詩屋さん」
   詩屋さんへ夏の性器をくださいな

「赤頭巾」
   赤頭巾ふかふかのパン木の芽合へ

「春の一日」
   誰ですか春の一日鳴きくらす

「収穫」
   収穫のぶどうの種を呑み込みぬ

「春の暦」
   幾度の春の暦のほろ苦し

「夜更かし症候群」
   夜の更けて羊を打てばめへと泣く

「羽ばたき」
   羽ばたきを片陰に聞く淋しさよ

「春の海辺」
   知らぬ間に春の海辺に泣いている

「駅」
   もふ遠ふに忘れた駅や夢おぼろ

「愛の方法」
   眼差しや愛の仕方へ晩夏光

「猫背」
   爪切って猫背をあげて葡萄吸う

「花茎」
   花茎にある不整脈とつとつと

「雨季」
   雨季の花色定まらぬ爪の色

「砂嵐」
   ふたりして見てる黄色砂嵐

「「百年」によせて」
   百年を叩く驟雨の破れ船

「空席」
   空席に果実が一つ終列車

「死にたまふ母」
   死にたまふ母も私も春の修羅

「記憶の海」
   砂のくに記憶の海の大夕焼け

「骨の話」
   骨のこと耳に残りて春の潮

「鼓動」
   母もまた春の鼓動を恐れしか

「冬の父」
   冬の父許し許され息ふかし

「古井戸」
   古井戸に少女の西瓜浮かびけり

「冬の火事」
   冬の火事消えてしずしず消防車

「お茶の時間」
   みんなゐてお茶の時間ににわか雨

「記憶」
   赤ちゃんの列の記憶や花の下

「橋」
   川はまた橋と交叉し夏の渦

「夕餉」
   水とめてひとり夜食に向かひけり

「鞦韆(ぶらんこ)」
   ぶらんこをゆすればこの世軋みけり

「空の耳」
   空の耳聞こえませんか合歓の風