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序文−相聞(あいぎこえ)        高田昭子



 このコーナーをつくることになった発端は、二〇〇四年末に桐田真輔さんがメールで次々に送ってくださった二十数篇の詩からはじまりました。それらは桐田さんが二十代から四十代にかけて書いたものであり、古い同人誌のなかに眠っていた作品でした。さらにその前の発端は、わたしの一編の詩でした。わたしの詩集「砂嵐・二〇〇二年刊」に収められていた作品「駅」が、桐田さんの個人誌「断簡風信・二号・一九八八年刊」に収められていた作品「廃駅」と似ていたことに、彼が気付いたことからでした。そのお互いの作品が書かれた時期は、十四年という時間の隔たりがあったのですが。

 次々に送られてくる作品に、わたしは返信を送りつづけました。半月くらい毎日それは繰り返されました。その過程でわたしはそれらの作品のなかに、呼応するわたしの作品もみつけることもできました。そのやりとりが終わり、桐田さんはご自分のホームページにその作品群の部屋を作られました。わたしはその時、送られた全編に対して「返し詩(うた)」を書いてみたいと思うようになりました。これは長い間、わたしが試みてみたかった詩作業でもあったのでした。

 それは、まだお互いに出会うこともなかった時間まで旅をすることでした。時間の階段を降りていったり、未知の空間をさまよったり、歩きなれない道を歩いたり、見えない影に怯えたり、さまざまな迷宮をめぐりながら、どうやら書き終わりました。どのように言葉を尽くしても、時間を取り戻すことなどできないことですが、「あいぎこえ」という初めての詩作業をとりあえず終えることができました。  二〇〇五年四月記

   真夜中の庭には
   過去からの雪が降っています。
   わたくしたちは ゆっくりと
   少年と少女の時間へかえってゆきましょう。

   往きついたところから
   もう一度歩きはじめましょう。
   夢のつづきのような朝への道に
   灯りをかかげながら。



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